No.216(2024年4月号)

特集 ◆ シリーズ清水 2024◆ 清水港 江尻地区・日の出地区

具体的な動きが見えてきた「みなとまち・清水」

大きな風が吹く!!  生まれ変わる

清水都心ウォーターフロント
清水港において人々が集まり賑わいの拠点となっているのが
JR清水駅東(江尻地区)から日の出地区にかけてのエリアです。
このエリアはこれから数年のうちに大きく変わろうとしています。
今回のイノセントは、これからオープンを予定する注目の
2施設にフォーカスしてお送りします。

新鮮な海産物が購入できると大人気、市内外から多くの来訪者を迎えている「地方卸売市場・清水魚市場〝河岸の市〞」(以下、河岸の市)では来年の春にリニューアルオープンを予定しています。建て替えの理由と目的、そしてどんな施設が誕生するのか気になります。そこで施設を所有、運営する清水魚株式会社の取締役専務執行役員、村松正章さんにお話をうかがいました。

 

地方卸売市場 清水魚市場〝河岸の市〞

まずは現在の河岸の市について改めて簡単に触れてみたいと思います。「河岸の市」はJR清水駅のすぐ東側、清水港に面した江尻漁港に建っています。オープンは2001年(平成13年)ですが、それから遡ること3年前に〝港に賑わいをつくろう〞との目的で簡単なプレハブ小屋を並べ、それまでお客さんと接する機会が少なかった水産仲卸業者の方が運営する「清水ポートサイドマーケット」を始めたのが切掛けでした。

この施設の設置期限は3年と決められていましたが、利用されたお客さんからの好評の声に応える形で正式に仲卸業者が販売する日本初の施設として「河岸の市」がオープンすることになったのです。全国にある海産物を扱う集合施設の多くは観光客を相手にしていますが、ここは地元の買い物客を大切にし、安くて良いものを提供、市場感覚を楽しみながら買い物ができることが特徴でこれにより〝市民の台所〞的な施設として地元民に愛されるようになりました。

やがてそれは口コミなどで評判になり市内外から多くの買い物客が集まるようになったのです。そして2012年(平成24年)には飲食店を集めた〝まぐろ館〞がオープンし、生鮮品の販売を主体とした〝いちば館〞の2館体制の施設となりました。

 

江尻地区が 秘めたポテンシャル

「施設の老朽化に加え、近年の気象状況の大きな変化により発生する高潮で度々施設内へ海水が浸水してしまうこと、また地盤沈下への対応となります。」と、村松さんから建て替えの理由についての説明がありました。この計画はコロナ禍の最中に検討されてきたとのことですが、コロナ禍が明ければ以前のような賑わいが戻ってくるだろうと予測、さらにこれを踏まえ、その先の将来を見越したで上で舵を切ったとの事でした。

2 0 1 8 年( 平成30年)には国土交通省が認定する〝みなとオアシス〞に清水駅東口公園と共に登録され、来春には新築病棟が完成する桜ヶ丘病院の移転や、駿河湾フェリーの発着場がこれも江尻に移転するといった大きな動きがあること、さらに清水駅東地区においては新サッカースタジアム構想も持ち上がるなど明るい話題が続く中、港湾計画の上でもJR清水駅東口地区は高いポテンシャルを秘めた地区と言えることを考慮しこのタイミングでの建て替えに踏み切ったということです。

 

もっと駅近に新しくなる〝いちば館〞

では、実際にどのような施設が建てられるのでしょうか。今回はいちば館のリニューアルとなります。河岸の市はそのまま営業を続け、まぐろ館北側にある駐車場スペースへ今年の5月中旬頃から新築工事を開始、来年の1月〜2月頃を目処に竣工を予定し、その後テナントに引き渡し4月のオープンを目指すとの事です。新設されるいちば館は地上2階建て、1階にはこれまでのいちば館同様に新鮮な魚などを販売するテナントが並ぶ予定で2階には清水魚株式会社の事務所が入居し、館の北側にはオープンテラスが設置される予定です。

さらにJR清水駅から延びる連絡通路(ベデストリアンデッキ)と直結する予定なので駅からのアクセスが容易になると思います。また、新館オープン後は現在のいちば館を取り崩して自家用車が約250台収容可能な立体駐車場を整備することを検討中とのことです。

 

隣県からも大人気さらにその先へ

「昨年5月GWに駐車場の車を調べてみたところ約85パーセントは県外ナンバーで、その半分くらいが山梨ナンバーでした。」と村松さん。「冷凍まぐろ水揚げ日本一」を誇る清水港は、中部横断自動車道が開通したことでマグロの消費量が多い山梨県からの来訪はこれからも増えることが予想されます。また同自動車道の整備がさらに進めば長野県、新潟県からの来客も期待できると思います。現在でも東名清水インターチェンジからのアクセスは容易ですが、現在建設工事が進んでいる〝清水立体〞が完成すればなおさら便利になります。リニューアルオープン後は今以上にみなとの賑わいの中心になることは間違いないと思いますが、地元民にとっても利用しやすく便利な施設になることを期待したいと思います。国際拠点港の清水港を有する静岡市では「国際海洋文化都市・清水」の実現に向け、「みなとまちづくり」を進めています。中でもJR清水駅周辺から清水港日の出地区にかけての区域を〝清水都心ウォーターフロント地区〞と位置づけ、その中心的拠点とも言える海洋文化施設の建設事業が進められています。

そして今、その施設の概要が明らかになり建設に向け動き出そうとしています。市民待望の施設とはどんなものになるのか、静岡市BX推進課・海洋ミュージアム建設室長の渡邊賢さんにお話を伺いました。

 

「海洋文化の拠点づくり」の経緯を振り返る

「市民の提言からスタートしたミュージアム構想ですが、ただ単に展示物を見て楽しむだけでなく、知って学び、また体験を通して海の出来事を自分の事として持ち帰ることができる、そんな施設を目指しています。」と完成イメージを話していただきました。まずは、建設に向けてたこれまでの経緯について簡単に触れておきたいと思います。2 0 1 4 年( 平成26年) に地元経済界で組織する〝魅力ある清水を創る会〞から、清水港にこんなことが出来たら良いといった想いの詰まった提案がなされました。その中に海洋に関する科学館(「ちきゅう海洋科学館(仮称)」構想)への言及があったことから、これが切掛けとなり検討が始まりました。この民意に対して静岡市では第3次総合計画策定重要プロジェクトに位置づけ、また静岡商工会議所からも同様の提言があったことから、その後本格的に事業として動き出すことになりました。

これにより「海洋文化施設」としてどのような施設を目指すのかに対する議論が重ねられてきました。そして、2018年度(平成30年度)に事業化が決定、翌2019年度(平成31年度・令和元年度)に待望のスタートを切りましたが新型コロナウイルス感染症の感染拡大に対し市はコロナ対策に全力を傾けることを発表、海洋文化施設を含む大型建設事業は一旦停止となりました。やがて、ポストコロナを踏まえた海洋文化施設への投資意欲の回復が見込まれた2 0 2 2 年度(令和4年度)に事業は再開、同年度内に施設の建設・運営を担う9社で構成する事業者グループが落札者に決定、その後この事業のための新会社が設立され現在(2024年3月)その事業者グループと整備に向けたさまざまな協議が進められているとの事です。

 

清水にしかない施設の実現に向けて

では、どんな施設ができるかが気になるところです。目指す施設のイメージは冒頭の渡邊室長の言葉にあったものですが、現在「( 仮称) 静岡市海洋・地球総合ミュージアム」として市から公表されている施設の概要は地上5階建て、いわゆる水族館機能と先端の海洋研究・技術を学べる展示を予定、目玉となるのは完成すれば国内で4番目の大きさとなる1700トンの水量の大型水槽です。つまり「水族館と博物館のハイブリッド」を目指しているとの事です。水族館と言えば水槽が並び、様々な魚などが飼育されている様子を見て楽しむと言ったイメージが浮かびますが、それとは一線を画した「学び」を得られる施設になると渡邊室長は力を込めました。

清水港は世界でもトップクラスの良質な環境を有する〝駿河湾〞に面しています。ミュージアムでは主にこの駿河湾をフィーチャーすることで海を身近に感じてもらおうと試みています。例えば駿河湾の中心部で資源豊富な漁場として知られる石花海(せのうみ)と呼ばれる場所がありますが、そこにはなぜ多種多様な生物が生息するのか、と言った謎に迫ったり、駿河湾の良質な環境を生み出しているのは富士山と日本一深いとされる海溝の落差による、山、川、陸地と海の関係を紐解いていくなど、見るだけでなく実感できる施設を目指しています。

また、なんと言っても他にはないここ清水ならではの取り組みとなるのが地元・東海大学海洋学部やJAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)との強力な連携です。彼らのノウハウや研究成果を実際に間近で見られるような展示を検討し、日本国内では類を見ないハイスペックなミュージアムを目指しています。元々、市が施設の見本として視察に出向いたのがアメリカのカリフォルニア州にあるモントレーベイ水族館だと聞くと、その方針はうなずけます。

 

駿河湾とつながるみんなのキャンパス

2024年4月現在、日の出地区にある建設予定地ではまだその姿の一端も見ることはできませんが、2026年度中の完成を目指して工事が始まる予定だそうです。オープン後の展望について渡邊室長は「(ここに)関わる人がつながって、連鎖的に新しい人を呼んで、さらに良い連鎖が生まれることに期待したい。」と語られました。

ミュージアムを中心とした人のつながりは事業者のコンセプトにも盛り込まれており「駿河湾とつながるみんなのキャンパス」のフレーズで表現されています。これは日本中、世界中からこの地域を目指してやってくる「全ての人に開かれたキャンパス」のようにしたいという思いが込められています。施設の完成後は将来的に海洋に携わる人材育成の拠点になるばかりでなく、このミュージアムが核となり民間の開発も促し、日の出地区から江尻地区までが一体となったみなとの賑わいづくりと広い「みなとまちしみず」のさらなる魅力の発信となることを期待したいと思います。