No.202(2021年12月号)

特  集 ◆ シリーズ清水 2021◆ “清水の底力を発揮しよう”

川と海を繋ぐ生き物たち

川で遊び海を考える

新型コロナ感染性の感染拡大が落ち着き始め、

中止や延期が相次いでいたイベントが少しずつ動き出しました。

当誌に度々登場してきた「海のみらい静岡友の会」の活動にも

参加者の笑顔が戻ってきました。

今回のイノセントはこれまでとはひと味違った会のイベントをお伝えしたいと思います。

海のみらい静岡友の会とは

静岡市は国の国際拠点港湾に指定されている地域にとって大変重要な清水港を有しています。そして港の先には日本一深い湾として知られている駿河湾が広がっています。駿河湾はサクラエビやタカアシガニ、アマダイなど豊富な海洋生物に恵まれているだけなく、2016年に「世界で最も美しい湾クラブ」に認められた富士山と合わせた景色は万葉集の時代から今も変わらず人々を魅了し続けています。

このように私たちの身近には素晴らしい港と海があるにも関わらず、海のことに関心を持たないことはとても勿体ないことだと思います。静岡市では現在、清水港に海洋文化拠点施設の設置を検討しています。これに併せて静岡商工会議所では市民に海への興味と関心を高めてもらおうと「海のみらい静岡友の会」を2016年に設立しました。

会では「未来を担う青少年及び一般市民に海や自然に親しみながら、海洋・地球等への知識や重要性を普及・啓発するとともに、将来における海洋文化を担う人材育成を図ること」を目的にJAMSTEC(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)や東海大学、東海大学海洋科学博物館(三保の水族館)等の協力を得て講演や体験会等の親しみやすいセミナーや見学会を開催しています。この他にも特徴的な活動として近隣県との交流事業も行っています。

少し難しい言葉で友の会について紹介しましたが、実際には海について子どもから大人まで楽しく学べるイベントが開催され、毎回多くの参加で賑わっています。

会員は地元企業などの法人や団体など、個人の会員もたくさんいます。会員になるには気軽に参加できる無料会員制度の他、無料会員よりお得な情報が優先で届く等の特典がある年会費が必要な有料プレミアム会員があります。

ぜひ海に興味をもって、会員になってみてはいかがでしょうか、只今会員大募集中です。

フィールドで遊んで学ぶ

イノセント編集部は10月17日に開催されたイベントに参加させていいただきました。そこで今回はその様子や内容をお伝えしたいと思います。

当日は市内から親子9組が参加して清水区内を流れる清流、「興津川」の上流に位置する支流・黒川を会場として「川と海を繋ぐ生き物たち」と題し、東海大学海洋学部博物館の学芸員、手塚覚夫さんと太田勇太さんを先生としてお迎えし指導いただきました。

当日は生憎の小雨模様からのスタートでしたが、見上げた山々の木々は少し赤く色づき始め秋の深まりを感じる気持ちの良い空気に包まれていました。

まずは先生から本日の説明と注意事項を受けた後、これから始まるフィールドワークに必要なアイテムとなる「手作り箱メガネ」を作成しました。(〝箱メガネ〟とは…箱または筒状のモノの底部がガラスやレンズになっており、水上から水中の様子を観察することができる道具)身近にあるペットボトルを使って、しかも簡単にできる工作は大好評、自分で作った箱メガネを手に参加者のみなさんは早くも気分が上がりました。

準備を整えたら講義を受けた建物のすぐ裏を流れる川に入りフィールドワークをスタート、川に棲む生き物の採集と観察が始まりました。

採集は俗に「ガサガサ」と言われる方法で、流れの下流部に採集網を用意し、すぐ上で石をひっくり返したり、川底に沈んで堆積している落ち葉を巻き上げたりなどして、生き物を網に追い込むと言うものです。スタート時には雨が上がりましたが、日差しは薄くしかも数日前までの残暑がウソのように肌寒い気温とあり、川の水も冷たかったのですが、子どもたちは最初からやる気満々、川の中を駆け回り採集はすぐに大盛り上がりとなりました。

近頃はTVでアイドルが自然と触れ合ったり、池の水を抜いて生き物を捕まえたりする番組を観ていることもありみなさん要領を掴むのが早く、どんどん生き物を捕まえていきました。

時間が経つにつれ少し疲れてきた子どもたちに代わって夢中になっていたのが、童心に返った大人たち、むしろこちらの方が熱心に川の中に浸っていたのではないでしょうか。中には大物をゲットして歓声が上がるくらい白熱した採集になりました。

採集終了後は捕まえた生き物の観察を行いました。初めて見る生き物やその生態に関する解説に熱心に耳を傾けた参加者のみなさんでした。

そしてフィールドワークの最後にはサプライズなお楽しみ〝鮎のつかみ取り〟が用意されていました。特別に興津川漁協さんから提供いただい鮎を追いかけて大きな歓声が川に響きました。

続いてこの体験を元に座学が行われ、このイベントの目的と内容にさらに理解を深めた一同でした。

 

体験するから楽しい。体験するからこそ学ぶこと

川の生き物から学ぶ海のこと

水のことをもっと知ろう

普段は主に海に関するイベントを多く開催している友の会ですが、今回はなぜ「川」だったのでしょうか。それはこのイベントで行われた座学の内容を詳しくお伝えすることで解ってくると思います。

座学では簡単な水質検査体験を行いました。

ここで先生が用意したのはパッと見では違いが分からない4種類の水のサンプルでした。

まずは見た目で「どの水が汚れているのか」を判別するためそれぞれの水の状態をよく観察して見ると沈殿物が混入した水がありました。そこで、これが最も汚れているのではないかと予想しました。

水の状態を知るためには私たちの目で判断できるようにすることが必要です。そこで、今回はパックテスト(COD=科学的酸素要求量)と呼ばれる実験を行い、水中にどれだけの有機物が含まれているかを数値化するこにしました。この数値が大きければ大きいほど水が汚れていると言う目安になります。

用意された4つの水を試薬に入れて色の変化でそれぞれの水の状況を判断することが可能になります。

全員で実際に検査を行ってみると意外な結果が待っていたのです。

なんと予想に反し一番数値が大きかったのは濁りがなくキレイにみえたサンプルでした。実はこの正体はスポーツドリンクを薄めた水でした。

ここで重要なのは人間にとって無害なもの(今回はスポーツドリンク)であっても、他の生物にとっては有害な水になると言うことが数値によって示されたと言うことです。このことから改めて、フィールドワークを振り返ってみると、見つかった生き物たちはカワトンボの幼虫、ヘビトンボの幼虫、カワゲラの幼虫などのキレイな水に生息する虫たちだったことから、この黒川はキレイな水の川であることがわかりました。

イベント再開に喜びの声

イベントの終わりに参加された皆さんに感想を伺いました。

まず、このイベントに参加された理由については「水の中の生き物を知りたい。興味がある。」との回答が複数ある中で「環境問題について知りたかった。」「この企画(イベント)を通して海や川、山、生物について少しでも学び何かに生かせないかと思った。」と言う具体的な目的で参加されたお子さんからの声には驚きました。

また今日の感想をお聞きしたところ、一様に「楽しく勉強できた。」とのことでした。さらに「環境のために今後は意識して生活して行きたいと思います。」といった貴重なご意見もいただきました。

この他、保護者の方々からは「昨年から続くコロナ禍で、さらに緊急事態宣言まで発出された今年の夏はいつものように思い切り出掛ける機会が少なかったので、このようなイベントが徐々に再開されることは嬉しいことです。」と言うこの時期ならでは声も聞かれました。

このように「海のみらい静岡友の会」では楽しい体験を通じて海に関する様々なことを学ぶことができるのが大きな魅力のひとつです。

海へつながる川が大切なこと

今回の体験イベントで興津川上流部にはキレイな水が流れ、そこにいるべき生き物たちが棲んでおり、自然のあるべき姿がそこにあることが分かりました。例えば、魚の中にはウナギやサケ、アユのように一生のうちに川と海を行き来するものもいます。これらの魚たちはキレイな川とその水が流れ込む健康な海があって元気に育ちます。

これを元に考えると人里離れた川の上流だけでなく、多くの人が住む中流や下流・河口域でも上流同様の自然が保たれることで豊かで元気な生物を育む海を作るのだと思いました。

 

イノセントから一言

今、世界中で〝海洋プラスチック問題〟に注目が集まっています。海中を漂うプラスチックは長い年月自然に帰ることなくそのまま残り続けこれらをエサと間違って食べてしまった魚たちが死んでしまう悲しい事が起こっています。このような事を起こさないためにも当たり前の言葉ですが、「来た時よりも美しく」の言葉を改めて大切に思うことと、人間と自然が上手に共存することを考え、昔から変わらない姿を後世につないで行くことを実践して行きたいと思いました。