清水の暮らしについて話しを聞くと「清水はいいとこだよ」と答えが返ってきます。この答えのとおり、「清水」を愛して止まない人たちがこのまちには沢山います。
清水に住んでいるとこの街には足りないモノやコトがあることも感じています。ではどうしたら清水は今以上に良くなり、地元住民はもちろんのこと、移住者にとっても住みやすい街になるのでしょうか。そこにはきっと多くの意見があると思います。
そこで今回の「イノセント」はそんな想いに対して語ってみたいと思います。
いつの事だっただろうか。思い出してみるとそれは何年も前の取材の話です。首都圏から清水区三保へ移住してきた主婦の方に話しを伺ったことがありました。取材内容は移住してきて感じた清水の印象や、三保地域についてでした。誌面に掲載される取材と知ってか取材を始めた頃はいわゆる〝当たり障りない〟回答でしたが、雰囲気に打ち解けてきた頃でした「(地域の)みなさんはこの素晴らしい環境の中で暮らしていることを当たり前だと思っていることがもったいないと思います。」と発言されたことを今でも鮮明に覚えています。
「例えば我が家では毎朝キッチンの窓を開けるとそこには富士山が見えるんですよ。歌にもある〝日本一の山〟富士山です。お天気によって見え隠れこそしますが、こんな素敵な景色が目の前にあるなんて、首都圏暮らしをしていた時にはあり得ませんでした。小さな事ですけど、こんな毎日の景色にも感動します。」との事でした。
この言葉を聞いてハッとし、当時改めて自分の周りを見直してみたことを思い出すと、名だたる観光地や清水ならではの地域の良いところに気がつきました。そして、これが「地域活性化情報誌イノセント」の編集の原動力につながっているのだなと思ったのでした。
3月、コロナ禍において首都圏を中心に緊急事態宣言が発令されている中、日々関連した話題ばかりで少々うんざりしていた頃、久しぶりに静岡県にとっては明るいニュースがもたらされました。
地方への移住を支援するNPO法人〝ふるさと回帰支援センター〟が毎年行っているアンケート調査「移住したい都道府県ランキング」において、初めて静岡県が1位に選出されたのでした。
これまでランキング上位の常連と言えば、長野県と山梨県、静岡県も上位に食い込みますが、この2県に阻まれトップの座は逃してきたましたが、ついに念願が叶ったと言う感じです。
この要因として昨年の新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、在宅勤務=テレワークが普及したことで、首都圏から近く、利便性の良い地域への移住ニーズが高まったことが挙げられますが、ランキング集計の全ての年代において1位となったことは驚きが隠せない結果と言えると思います。
数年前から静岡に移住したいと公言する芸能人がいたり、日帰りでの撮影が可能なことから経費が抑えられると言った理由から静岡をロケ地に選ぶプロデューサーがいたりと、首都圏と静岡県の利便性に対する好評価な話をチラホラと聞くようになりました。しかし、ご存じのとおり静岡県は東西に広く、長く、東部・中部・西部のそれぞれの地域で微妙に文化が違ったりします。それぞれに新幹線の停まる駅があり、それぞれに魅力があり、一言で〝静岡に移住〟と言っても選択肢は数多くあります。
そんな中、イノセントとしては、ぜひ静岡市清水を選んでもらいたいと思います。1年を通じて温暖な気候、数々の観光名所を有し、富士山を望む美しい日常の景色、まちの人々の穏やかな人柄に、都会すぎない程よいのんびり感など、そこに見えてくるのは「居心地良い地方暮らし」と言ったキーワードではないでしょうか。しかし、現実に目を向けてみると喜ばしいランキングとは相反して、移住どころか人口減少に悩む姿がそこにあります。
そこで、静岡県に移住を目指す人に清水をチョイスしてもらうには今、何が必要なのか、長く市政に携わり、今も地域の発展の為に力を注いでいる方からの助言とアイディアを元にイノセントなりに清水の魅力向上について夢のような話も交えながら発信してみたいと思います。
何と言っても首都圏と清水との往来が容易であることが条件の一つに挙げられることでしょう。それならJR清水駅に新幹線が停まれば一発解決、と言いたいところですが、そう簡単にいく話ではありません。
そこで何年も前に持ち上がったのが、東京都新宿区の新宿駅から神奈川県小田原市の小田原駅を結ぶ小田急小田原線を清水まで延長したら、と言う話でした。都のど真ん中からの直結便であれば利便性の向上は言うまでもなく、加えて様々な効果が期待できると思います。
そして最も現実味があるのが、駿河湾フェリーの発着場移設です。現在の清水港日の出から、江尻地区へ移設することによる利便性の向上です。これが実現することにより、発着場はJR清水駅と直結することになることから、フェリーから別の移動手段へのスイッチが入れば便利になるばかりかこれまでの観光を主とした利用に加え、ワーケーションを兼ねたビジネスへの利用にも活用される可能性もあると思います。
このように首都圏との往来を見据えた移動手段の向上は清水への移住を勧める一つの鍵と言えるでしょう。
人口減少の一つの要因として挙げられるのが産業の衰退です。経済成長期に清水を支えてきた様々な産業は今、なりを潜め、当時それらの企業に勤めていた人々が多く住んでいた〝社宅〟は姿を消し区画整理・戸建て分譲へと変わっています。時代は変わり、IT産業が台頭し、企業誘致で地域の活性化を望むのはひと昔前の発想となりつつある今、求められるのは起業のしやすさです。起業し産業が生まれれば、必要になってくるものの一つが物流です。清水港は小さな港ですが、国に認められた重要な港です。今や商売の相手は国内だけではなく海外になることも当たり前な時代です。この港に隣接するカタチでJR貨物ヤードを整備することで清水は国内でも有数の物流拠点の一つになり得るのです。すでに大型コンテナ船の受け入れが可能となっているだけなく、その背後地にはコンテナヤードがありますが、その臨港地帯に鉄道貨物ヤードを整備すれば、隣接する東名高速道路と併せて物流が集約され、大物流基地として機能すると思います。
ビジネスだけでなく、今の時代に求められるのは心のゆとり、移住者の心の満足です。富士山と駿河湾の美しい景色は当たり前、日本三大美港の一つに数えられる清水港には客船が似合います。コロナウイルス感染症の影響で客船に対するイメージが低迷していますが、これまで清水港では積極的に客船を誘致し歓迎してきました。きっと悪いイメージの払拭にも清水港は一助になると思います。県と市は港を核にした〝清水都心ウォーターフロント地区開発〟を目指し、港開発に力を注いでいます。そこで提案。JR清水駅に近い港地区に新しいサッカースタジアムを建設、それだけではなく、港で発生する冷熱を活用した国際規格のスケートリンク場などの一大スポーツ施設を整備し国際試合を誘致、開催さらに、スポーツを身近に感じてもらうため市民にも開放、駅と港を基点に居住区や病院や役所、ショッピングモールへの展開と、コンパクトながら充実したまちづくりが人々の日々の暮らしの便利さや豊かさ、心の満足を上げてゆくことになると思います。
冒頭の主婦の方の話には実は続きがあります。 日々の小さな感動について意見を述べられた後「この話を地元の方にしてもあまり共感を得られないんです。富士山が見えること、見えて当たり前、それが生まれ育った地元の方の日常なのは良く分かります。でも、それは身近な宝を見過ごしてしまっているようで残念に思います。」と話してくれました。
今思い返しながら、あの時のあの言葉を今でも変わらず持っていて欲しいと思うと同時に、この言葉に清水の発展のヒントが込められていたのではと改めて思ったのでした。
道路整備やハコモノ建設による一時的な経済活性はすでに過去のものになりつつある今、今こそ清水区が元々持つポテンシャルや、これまで進められてきた政策や造られた施設を有効活用して、それらの成果を引き出すことが求めてられているのではないではないかと思います。
そして、静岡県、静岡市の中から、移住先として指名されるためにも今こそ「清水ブランド」を確立することだと思います。
今回の記事に込められた〝夢〟が誰かの目に留まり、カタチを変えてでも、実現へ動き出したとしたら、きっと今まで以上に移住先を清水を選んでくれる人が増えるのではないかと期待したいと思います。