昨年、清水港は開港120周年を迎え、7月に開催された関連イベントでは多くの人々が港を訪れ大いに盛り上がりました。そして今年は清水港の客船寄港に尽力してきた「清水港客船誘致委員会」が設立されて30年の記念すべき年となります。
1990年2月、霧雨に煙る清水港に姿を現したのは20世紀後半を代表する豪華客船「クイーン・エリザベス2」でした。この時この客船をひと目見ようと約9万人が港に詰め掛けたと言います。まだ産業の港として立ち入りが制限されていた頃としては異例の出来事であり、どれだけ多くの人々の関心が港に集まっていたかを知るエピソードです。そしてこの事業こそ、それまで産業の発展で成長を続けてき
た清水港にとって、人々が集う賑わい創出の幕開けのシンボルとなったのです。まさに、この事業の実現のため官民が一体となり企画に取り組んだことの成果だったわけですが、港の価値を高めることに一役を担う客船を清水港に呼び続けようと設立されたのが、客船誘致委員会でした。
あれから30年、委員会の冷めることのない熱意とたゆまぬ努力により年々寄港する船の数を伸ばしています。
客船クルーズの魅力と客船が清水港にもたらす経済効果の一端に迫りたいと思います。
清水港客船誘致委員会公認カメラマンとして多くの清水港客船寄港に立ち会っている望月敏秀さんに客船の魅力についてお話を伺いました。
2012年に現役を引退し〝さて、これから何をしようか?〟と考えている時に目に止まったのが静岡市による市民カメラマンの募集告知でした。早速これに応募、運良く採用され8月の清水みなと祭りから本格的に活動をスタートさせました。取材活動の中、翌年の12月にたまたま「飛鳥Ⅱ」の撮影に訪れたのが私と客船の出会いであり、その時に感じた驚きこそ客船に魅了される切掛けとなったのでした。それからは客船が入港するたびに港に足を運び撮影を続け、そのうちに港湾関係者と顔見知りになり、歓迎式典の撮影を依頼される等、客船取材活動の幅が次第に広る中、客船撮影への協力が認められ、公認カメラマンとして認定していただくことになりました。
客船の魅力の一番はその船体の美しさではないでしょうか。飛鳥Ⅱはまさに日本の名船と言っても過言ではないかと思います。そして乗ってみてこそ分かるのがクルーズの素晴らしさです。客船は「動くホテル」と例えられますが、まさにその通りでホテルが目的地まで連れていってくれる、そんな感じではないでしょうか。時に「船旅はハードルが高い」と思われる理由の一つに〝料金が高い〟と言うイメージがありますが、一般的な旅行を考えてみて下さい。自分で目的地まで移動して、食事をして、さらにホテルに移動して宿泊する等、これらトータルの旅費と比較して、客船には移動の費用や、食事代、宿泊代がセットになっていると考えれば、(グレードにもよりますが)それほど高くはないと感じると思います。最近では旅行会社によるリーズナブルなツアーもあるので、身近になってきていると思います。特に食事はコースとなっており、どれも美味しくて食べ過ぎてしまうくらいです。船内の娯楽施設やショーが楽しめる他、船上からは、普段見ることのできない景色が広がっています。
飛鳥Ⅱ等の日本船での旅行は特段問題ありませんが、外国船のクルーズを楽しむのなら、ダイヤモンド・プリンセスのように日本人(日本語)に対応したコーディネーターがいる船を選ぶことがクルーズ初心者にはオススメです。
ただ、働き盛りの日本人にとって旅費以上に長期休暇を取得することが難しいことが船旅のハードルを上げているもう一つの理由かもしれませんね。実際、乗客の多くに年配の方を見ますが、最近では家族連れも増えてきていますので旅行の選択肢の一つに船旅を加えてみてはいかがでしょう。
客船の寄港が増えれば、港は盛り上がり、賑わいます。自分が思うに清水港はソフト面では充実していると感じますが、ハード面ではもう一歩だと気づくことがあります。高知を訪れた時に感じたのは街の商店街全体に歓迎ムードが溢れていたことです。やはり清水も街を挙げて客船を迎えるムードづくりや街の整備を行うことが必要ではないかと思います。
今後も港や客船への想いをそのまま活動を続けていきたいと思っていますし、昨年開催して好評だった写真展もぜひまた開きたいと思います。特に葵区や駿河区などに清水港の魅力を広めて行ければと思っています。
しかし、2020年は50隻を超える客船の寄港が予定されているため、私ひとりでは手一杯になってしまいそうです。船の魅力を発信するには様々なアングルの写真があれば良いと思います。そこで私と一緒に活動していただける方を探しているところです。撮影活動はボランティアのため報酬等はありませんが、自分の写真が何かしらのメディアで活用されることで励みになります。客船と写真が好きで清水港を愛する方にぜひ名乗りを上げて欲しいと思っています。
1999年、清水港開港100周年を迎えるにあたり、開かれた港の象徴として港に人々の賑わいと憩いの創出を目的に整備された商業施設が〝エスパルスドリームプラザ〟でした。
富士山と清水港を眺める絶景のビューポイントと個性溢れるショップの数々、清水を満喫できるグルメと映画館を備えた施設は昨年開業20年を迎えました。
客船の寄港がもたらす経済効果を間近で見つめてきた同プラザの坪井課長さんにお話を伺いました。
おかげさまで昨年の10月8日に開館20年を迎えることができました。
開館当時はまだ年間数回程度だった客船寄港は年を追うごとに増え、寄港の度に当館へ来館される外国人の方も増え、今ではお店の対応、接客、商品内容において海外のお客様に十分対応できるよう充実させなければならない程になってきました。例えば、案内表記には日本語の他、英語、中国語を併記したり、近年需要が高まっているWi-Fiの設備も完備しました。ただこれは単に客船が寄港するからではなく、インバウンドに対する世の中の流れにおいて必然的な対応だと思います。
独自の取り組みとしては、館内に出店しているテナント同士が連携してお客様対応の勉強会を開いたり、最近流行のコンパクト翻訳機やスマートフォンの翻訳アプリを積極的に活用し言語対応を図ったりしています。しかし、カタコトでもジェスチャーや熱心な対応を通じて分かり合えるケースも多々あり、型にはまったセールスの会話よりも、おもてなしとは人と人とのコミュニケーションが大切なんだと改めて実感しています。
客船に関して言えば、ツアーの行程の中で清水港が国内最後の寄港地だと乗船客の財布の紐が緩む傾向が見受けられます。海外のお客様にお土産として買い求められる人気の商品としては和物・和雑貨が多いようです。また当館に常設の「すしミュージアム」では浴衣レンタルを行っており、純和風のロケーションの中で思い出に残る撮影ができるとお喜びいただいております。また、物品を買って帰るだけでなく、スマートフォン等を活用した多言語対応の音声ガイドを活用した日本を代表する食〝すし〟の知識と文化も持って帰っていただける試みも行っています。
一方、国内に目を向けると、まだ知名度向上や誘客が十分でないと感じる事があります。地元静岡市の皆さんにはこの素晴らしいロケーションや、港を身近なものと感じていただき、気軽に出掛けられる非日常空間がすぐそこにあると知っていただければと思います。
今、清水港日の出地区では行政主導により〝海洋文化拠点〟の整備と言う大規模は整備が始まろうとしています。
同時に太平洋側と日本海側をつなぐ新しい大動脈〝中部自動車横断道〟の全線開通も迫っています。このチャンスをいかに活用して、港を盛り上げ、これまで以上に賑わいを作るかが大きな鍵となってくると思いますが、その際には当館が〝点〟ではいけないと思います。まさに今こそ官民が一体となって点を面として広げて行くことが大切だと感じています。
施設が誕生して20年が経ちました。開館当時、お父さん、お母さんと一緒に訪れた子どもが今は逆に自分が親となり子どもを連れて遊びにくるようになりました。これから30年、40年を見据えたとき、おじいちゃんやおばあちゃんも一緒に、いわゆる3世代が楽しめる施設づくりを目指して行きたいと思います。
これからの客船寄港、そして日の出地区の再開発に期待が高まります。
今年はこれまで清水港に寄港した客船の中でも最大級となる「スペクトラム・オブ・ザ・シー」が3月に、客船誘致委員会設立の節目にとって象徴となる「クイーン・エリザベス」が4月に寄港が予定されています。まさに、日常では味わえない景色が、身近な港に広がります。
あの「クイーン・エリザベスⅡ」が初めて清水港を訪れた時の市民あげての歓迎ムードを再現することで次の10年、そしてこれからも港を盛り上げてゆくことにつながるのではないでしょうか。
静岡市にとって清水港はすぐそこにある国際港です。ぜひこの機会に港に足を運んでいただき、客船や港の魅力に触れて欲しいと思います。